忙しすぎる現代人の心に深く刺さる「方丈記」

 みなさん「方丈記」って読んだことありますか?
 鴨長明が書いた随筆でしょ!と知っている方は多いと思いますが、実際読んだことがある方は少ないのではないでしょうか。
 やはり、鎌倉時代から現代まで読まれてきた随筆だけあって、今を生きる人たちの心に響く部分が多いです。むしろ、いつも忙しくしている現代人にこそ強く共感できるところが多いのではないかとさえ思えます。
 今回は、そんな「方丈記」について、紹介していきます。ちなみに、私が読んだのは、蜂飼耳さんという方の訳です。

鴨長明とはどんな人物だったのか

 鴨長明は、1155年~1216年まで生きた随筆家・歌人です。後鳥羽院に認められるほどの歌の腕前があるとともに、琵琶の名手でもありました。そのように才能に恵まれながらも、本人が望んだような人生を送ることはできなかったようです。性格的には、他の人と同じように枠に収まらないタイプであり、どこか過剰なところがあるような人でした。最終的には、世間から遠ざかり、小さな住まいでひっそりと生活するようになります。そこで、「方丈記」などを執筆しました。

明月院

方丈記の概要

 前半はこの世の無常観について書かれています。それがまさに冒頭に集約されています。
 
 ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。よどみに浮かぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、久しくとどまりたるためしなし。世の中にある人と栖と、又かくのごとし。

 つまりは、全ては移り変わるものであり、人の命も住まいも儚いものであることが書かれています。具体的には、鴨長明が知っているだけでも、火事、竜巻、地震などの災害、遷都、飢饉が起こり、多くの人たちの命が失われ、住まいが破壊され、引っ越しを余儀なくされるようなことが起こっていることが読み取れます。
 これを考えると、多くの人たちが立派な家を建てるため、財産をつぎ込み、心労を重ねていることはおろかである。一方で、世間の常識に従わないと、周りの人たちからまともではないと思われてしまう。従っても、息苦しい生き方になる。
 それではどうやって生きていけばいいのか?心安らかに暮らせる方法はあるのだろうか?

 それに対する1つの回答として、後半部分で鴨長明の暮らしなどが紹介されています。
 一言でまとめると、草庵での簡素な暮らしの素晴らしさが書かれています。
 具体的には、住まいは一丈四方のこじんまりとした住居をつくった。それは車2台もあれば、簡単に引っ越すこともできるものであるようです。家の中には、音楽や和歌の書物、琴や琵琶など最小限のものだけ置いてある。さらに、季節に応じて自然を感じたり、気ままに琵琶を弾くなどして楽しんでいる。近くに住んでいる10歳の子とあちこち散策する。彼はそんな生活を気に入っているという様子がうかがえます。

建長寺半蔵坊

 一方で、元々、このように世間から遠ざかって山林に分け入って暮らしているのは、仏道修行のためであったはずだ。だけど、音楽や和歌から離れられない。本当にこのままでいいのか?もっとまじめに修行すべきではないのかという迷いも垣間見れます。要するに、冒頭において、世の中の無常観について語られているため、長明が達観した人物のように見えてしまうのですが、方丈記全体としては、長明の葛藤が読み取れるものになっているんです。だからこそ鴨長明という人間を身近な存在として感じられるし、魅力的に映るのです。

最も印象的だったところ

 「都に出かけることがあって、そんなときは自分が落ちぶれたと恥じるとはいえ、帰宅し、ほっとして落ち着くと、他人が俗塵の中を走り回っていることが気の毒になる」と書いてある部分。

 草庵での質素な暮らしに満足している長明も、都に出ると自分が落ちぶれてしまったと恥じていることが共感できました。
 私の場合は、長明まではいかないですが、出世とかも興味がなく、家族と一緒にいる時間や自分の時間を大事にしています。仕事はそれ以上ではなく、与えられた役割はこなしますが、もっと大事なものを犠牲にして頑張るものではないと考えています。元々不器用なタイプと言うこともあって、出世はかなり遅れています。私はそれでも一向に構わない。しかし、世間は結構「出世=幸せ」と考えている人が多いように感じます。出世できていないと惨めだと思われる風潮にあります。
 だから、昔の友人などで仕事がうまくいっている人と会ったりすると、自分が惨めに感じる。自分の話なんかしたくないなぁと思っちゃうんですよね。ただ、一人になってよくよく考えると、自分は十分に幸せだし、いろんなものを犠牲にして、出世競争に耐えている人たちの方が気の毒だなぁと思ったりします。
 私のような考え方は、少数派なのかもしれません。だけど、800年という時を経て、同じような感情を共有できたことに感動しました。

感想

 「方丈記」おける長明の生き方を知り、連想したものがあります。それは、古代の「エピクロス派」と現代の「ミニマリズム」です。

 まず、「エピクロス派」とは何かと言うと、古代ギリシャの哲学者エピクロスを中心とする集団のことです。エピクロスは、「快楽主義」を主張しました。「えっ、じゃあ美味しいもの食べたり、毎日パーティーをして過ごしたりしてたの?」と思う方もいるかもしれないですが、それは誤解です。エピクロスの言う「快楽」とは、身体的に苦痛を感じることがなく、精神的に不安がない静かな状態です。
 具体的には、エピクロスはアテネの郊外に「庭園学園(エピクロスの園)」を創設して、仲間たちと質素で禁欲的な生活を送ったようです。一言でまとめると「世間から隠れて生きよ」ということです。

 長明と似たような生活ではありますが、個人で暮らすか、集団で生活するかの違いはありますね。こう考えると、エピクロスは2000年の以上前の人なので、心穏やかに暮らしたいというのは、どの時代の人たちにとっても課題であり続けたということなんだと驚きました。特に、現代は心をすり減らしている人が多いので、より一層、どうしたら「心の平静」を保てるのかが重要になっていると感じます。

 ちなみに、エピクロス派は一時期勢いがありましたが、だんだんと衰退していきます。多くの人にとって、過度な禁欲は難しいのではないかと思います。個人的には、欲を押さえつけるのではなく、コントロールしてエネルギーに変えていくという考え方がいいのではないかと思っています。私も、「お金持ちになりたい!もっとおいしいものを食べたい!ブログがヒットして欲しい!そして、仕事を辞めたい♪」と思いながらブログを頑張っています。本当に欲をコントロールできているのかどうかは怪しいですが・・・

建長寺半蔵坊。私は、自然や歴史に触れることで心の平静を保つことができます。

 そして、最近よく耳にする「ミニマリズム」についてですが、こちらも長明と通づるものがあると思います。長明は小さな住まいで、必要最低限の本や楽器などしか持たない暮らしをしています。それでいて人生を楽しんでいるという訳です。

 私も極端ではないですが、「ミニマリズム」的な生き方が好きです。なぜなら、ものを少なくすることによって、自分が本当に大事にすべきものが見えてくるからです。現代は、メディアからの過剰な広告などでどんどん購買意欲を促進されてしまいがちです。必要ないものに囲まれると、整理するのも大変で、家が散らかり、ストレスもたまります。お金も無駄に使ってしまいますよね。

あじさいをきれいに撮りました!写真のコツも無駄を削り、主役を強調する、つまりはミニマリズムかなと感じています!

 一方、無駄なものを買わないと、お金に困らなくなりますし、片付けも楽でストレスが減ります。そして、何より自分にとって何が大事なのかが整理され、生活の質が向上します。「ミニマリズム」もやりすぎはどうかと思いますが、ほどほどに挑戦してみることをおススメします。
 ちなみに、私はヨーグルトとコーヒーが好きなので、ヨーグルトメーカーやコーヒーメーカーを買って、毎日楽しんでいます。また、睡眠も大事にしているので、ベッドを良質なものにしてます。さらに、歴史散歩が好きなので、それ用に一眼レフのカメラを買いました。このように、自分が重要だと思うことに対してはある程度お金を使うようにしています。一方、外食を控えたり、いつも水筒を持ち歩いたり、コンビニよりもスーパーを使ったりと、必要ないところにはほとんどお金を使いません。
 なんか、話が脱線してきていますが、もう一つ重要なことがあります。物を買うより、経験にお金を使う方が幸せになれるということです。長明に話を戻すと、彼はものをほとんど持たないが、趣味を楽しんだり、自然を味わったり、子供と散策したりと、とてもステキな「経験」をしています。自分があとわずかで死ぬとなった時、きっと「あそこに旅行したのは楽しかったな」とか「あの時は大変だったけど、いい思い出だな」と自分の経験を振り返るはずです。「最新の車を買ってよかった」や「高級な服を買ってよかった」などとは思わなのではないでしょうか。つまりは、ものを買ってもその時だけ幸せかもしれないですが、それは長続きしません。経験は一生の思い出として残るので、経験を重視すべきなのです。

源氏山公園 化粧坂で転びそうになったのもいい思い出です!

まとめ

 以上が、「方丈記」を読んで感じたことなどになります。私も学生の頃に作者と題名は学んでいたのですが、どういうことが書かれているのかは全然知りませんでした。でも、子供の頃に読んでも響かなかったかもしれません。40歳近くになって、忙しい毎日に疲れ、自分ってこのままでいいのかなとか迷いだした頃が方丈記を読む 一番の「旬」 だと思います。だからと言って、いきなり長明みたいな暮らしを始めたら、家族に怒られちゃいますけどね。徐々に長明に向かっていく、少しその要素を取り入れるだけでも人生をより良くできるのかもしれませんね。

 今回のまとめでは、伝わらなかった部分もあると思います。是非、気になった方は本書を読んでみてください。ではでは

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