奈良旅行の初日にまず訪れたのが法隆寺である。旅行の計画では、JR奈良駅から近いところを回ろうと思っていたので、法隆寺まで足を延ばすか最後まで迷っていた。しかし、世界最古の木造建築が並ぶ世界遺産・法隆寺。古さの中に、いつまでも色あせない魅力が詰まっているその場所を訪れない訳にはいかないと感じ、行くことを決心した。
結果的には、今回の旅で一番見ごたえがあった。というか、その壮大なスケールに圧倒された。そんな法隆寺で見てきたこと、感じたことなどをみなさんと共有できれば幸いである。
法隆寺とは?
法隆寺は、飛鳥時代の姿を現在に伝える世界最古の木造建築として広く知られている。平成5年(1993)に日本で最初に世界遺産登録された聖徳宗総本山である。
用明天皇が自らの病気の平癒を祈って寺と仏像を造ることを請願したが、その実現をみないまま亡くなってしまった。そこで、推古天皇と聖徳太子が用明天皇の遺志を継いで、推古15年(607)に寺と本尊「薬師如来」を造ったのが、法隆寺の始まりとされている。
創建時の伽藍は失われてしまっているが、西院伽藍の金堂・五重塔・中門・廻廊は7世紀後半~8世紀初頭に再建されたもので、現存する世界最古の木造建築である。
また、寺内には、たくさんの宝物類が保管されており、国宝・重要文化財に指定されたものだけでも約190件、点数にして約2500点にも及んでいる。
境内を散策
JR法隆寺駅から法隆寺まで歩いて約20分くらいかかる。境内がとても広いため、体力に自信がない方には、バスなどの利用をおすすめする。
今回は、南大門から境内に入り、西院伽藍⇒西円堂⇒大宝蔵院⇒東院伽藍 の順で回ることにした。境内の敷地がかなり広いので、普通の観光客であれば、法隆寺だけでも歩き疲れてしまうのではないかと思う。
南大門
法隆寺の玄関にあたる南大門は、永亭10年(1438)に再建された。この門に到着して、ようやく法隆寺にきたんだなぁと実感できる。そして、境内の様子はどんな感じなのかワクワクしてくる。
西院伽藍
南大門を通って真っすぐ行くと、西院伽藍がある。いきなり最大の見どころだ!!
まずは、中門が待ち受けている。建物自体が国宝指定されていることに加えて、左右に立つ金剛力士像も迫力に満ちている。どうやら奈良時代に造られた像であるようだが、よくできているので、もっと後の時代の作品のようにも見える。
金剛力士像の迫力に圧倒されながらも、勇気を出して西院伽藍の内部に入っていく。西院伽藍を囲っている廻廊も国宝指定されている。こちらは飛鳥時代に造られたとのことである。柱などを見ると、かなり古いように見受けられるが、歴史の重みをひしひしと感じ取ることができる。
次に、目に付くのが五重塔である。その存在感は圧倒的である。高さは約32.5mもあり、わが国最古の五重塔としても知られている。
さらに注目すべきは、金堂である。私が法隆寺を訪れた日は風が強い日だったこともあり、金堂に取り付けられている鐘がとてもきれいに鳴っていた。思わず立ち止まって、その音色に聞き入ってしまったが、12月末の奈良は寒すぎて、ゆっくり動かずに聞いていることはできなかった。でも、心に響くその音は忘れることができないものであった。
また、金堂の内部にも見逃すことができない仏像などが存在する。
まずは、飛鳥彫刻を代表する釈迦三尊像!こちらは、日本で初めて仏像を造ったとされる鞍作止利という人物の作品である。この像は、釈迦の像でありながら聖徳太子その人の像でもあるとされ、法隆寺が太子菩提の寺でもあることを物語っているという貴重な仏像である。
そして、薬師如来像も必見である。なんと、その光背裏面の銘文に法隆寺創建の由来が刻まれている。歴史的にものすごい価値がある作品であるといえる。
これらの飛鳥時代に造られた仏像を見ていると、平安時代や鎌倉時代に造られたものと大きく異なることが分かる。当然、後の次代の方が完成度が高いのだが。それでも、仏像を造り始めたころの作品を間近で見ることができて感動し、涙が出そうであった。日本の仏像制作の始まりを感じることができたのは、何とも素晴らしい経験である。
写真を撮ることはできないので、気になる方には、法隆寺のHPをご覧いただきたい(今後も基本的には建物内部の写真は撮れないため、HPのリンクを掲載)。
金堂 | 聖徳宗総本山 法隆寺
最後に、大講堂が奥にある。下の写真のとおり、正面にはいくつかの扉がついている。風が強く吹くと、木製の扉なので、きしむ音が聞こえる。これがまた、たまらなく趣深い♪機会があったら、耳を澄ませて聞いていただきたい。
こちらの内部も大注目である。国宝である薬師三尊像(平安時代)が安置されている。先ほどご紹介した飛鳥時代の仏像との違いにも注目いただきたい。ちなみに、飛鳥時代の仏像の特徴は3つある。顔の感情表現を極力抑えながら、口元だけは微笑みの形を伴っている「アルカイックスマイル」。側面から見られることは意識せず、前方からの見た目だけ整えている「正面観照性」。そして、「左右対称性」。
平安時代は、仏像にも国風文化の波が押し寄せてきた関係で、より日本人的な顔立ちになっている。完成度も高まっており、よりみなさんが想像するような仏像の姿になっているのではないだろうか。
西円堂
西円堂は、基本的な拝観コースから外れているが、是非訪れたい場所である。
まず第一の理由は、建物自体が国宝だからである。奈良時代に橘夫人の発願によって、行基菩薩が養老2年(718)に建立したと伝えられている。八角円堂である現在の建物は、鎌倉時代である建長2年(1250)に再建されたものである。
第二の理由として、わが国最大級の乾漆像として知られる本尊・薬師如来像(奈良時代)が安置されているからである。こちらも当然のことながら国宝に指定されている。
西円堂・薬師如来像 | 聖徳宗総本山 法隆寺
第三の理由として、景色がいいからである。西円堂は少し高いところにあるため、法隆寺境内を広く見渡すことができる。五重塔もしっかりと見えて、なかなかの景色である。思わず五重塔に向かって「やっほー」と叫びたくなったが、変な人と思われたくないので止めておくことにした。
大宝蔵院
西円堂から西院伽藍の方に戻り、西院伽藍を通り過ぎていくと、平成10年に完成した百済観音堂を中心とする大宝蔵院がある。建物自体は新しいものであり、歴史的に価値が高いものではないが、内部には貴重な宝物が数多く展示されている。
まずは、百済観音像(飛鳥時代)であるが、わが国の仏教美術を代表する仏像として、世界的に有名である。そして、日本の仏像には珍しい八頭身のすらりとした姿と、その独特な表情は多くの人々を魅了してやまない。私もその不思議な魅力に引き寄せられてしまう。しばらく、あらゆる角度から観察していた。
その他にも、推古天皇御所持の仏殿と伝える玉虫厨子(飛鳥時代)、蓮池の上に坐す金銅阿弥陀三尊像を本尊とする橘夫人厨子(白鳳時代)など国宝が数多く存在する。その中でも、私の印象に残ったのは、夢違観音である。この像に祈ると、悪夢が吉夢に変わるとされることから、その名がついている。少年のような顔立ちで、その表情から元気をもらえるような感じがした。
東院伽藍
大宝蔵院を出て、南の方に進むと、東側に東大門が見えてくる。こちらは、奈良時代に建てられた門であり、国宝指定されている。南北に通る棟木が、両脇と中央の合計3本ある三棟造という建築様式で、奈良時代の姿を伝える貴重な門である。ただの門だと思って、気にせず通り過ぎてしまうにはもったいなすぎる…
東大門をくぐり抜けて、真っすぐ進むと、東院伽藍に到着。
一番の注目は、夢殿である。西暦601年に造営された斑鳩宮跡に、行信僧都という高僧が、聖徳太子の遺徳を偲んで天平11年(739)に建てた伽藍を上宮王院という。その中心となる建物が夢殿なのである。八角円堂の中央の厨子には、聖徳太子等身の秘仏・救世観音像(飛鳥時代)を安置している。残念ながら、救世観音像は、春と秋の特定の時期しか公開されていないので、見ることはできなかった…
夢殿・絵殿・舎利殿・伝法堂・東院鐘楼 | 聖徳宗総本山 法隆寺
その他、絵殿・舎利殿なども建物自体が美しいので、注目していただきたい。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
世界遺産・法隆寺の魅力は伝わったであろうか。やっぱり、写真よりも近くで見て、実際に感じ取っていただくのが、一番いいと思う。特に、仏像などは、写真を撮ることができないので、実物を見て、目に焼き付けて欲しい。
あと、今回の記事でも「音」について言及したが、そちらも実際に体験していただきたい。
個人的には、今まで訪れた寺社の中で、一番好きな場所であった。鎌倉や奈良など多くの場所を訪れたが、法隆寺はやっぱり特別であった。
飛鳥時代や聖徳太子などについて、より一層学んで、知識を深めるとまた見える景色が変わってくるのではないかと思う。だから、勉強しなおして、また数年後出直したいと感じている。
みなさんにも、奈良観光をするなら法隆寺を強くおすすめしたい。歴史に興味がある方にとっては、本当にいい時間を過ごせるはずである。
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